キリギリスの憂鬱
ある日、おじいさんキリギリスが散歩に出かけると、一匹の子どものキリギリスが草むらの中にある小さな岩の上に座っていました。おじいさんキリギリスが近づいてみると、その子どものキリギリスはどうも少し悲しそうな様子でした。そこで、おじいさんキリギリスは声をかけました。
「こんにちは。どうしたんだい? そんな悲しそうな顔をして?」
おじいさんキリギリスの声に反応して、子どものキリギリスがゆっくりと振り向きました。
「こんにちは。おじいさん。僕、今、ちょっと『運命』について考えていたんだ」
まだ小さなキリギリスの口から『運命』という大それた言葉が出て来たため、おじいさんキリギリスは少し驚きました。
「『運命』なんて難しい言葉をよく知っているね。一体、どこで習ったんだい?」
子どものキリギリスは答えました。
「うん。僕、本を読むのが好きなんだ。今日も図書館から本を借りて来たんだけど・・・」
そう言いながら、子どものキリギリスは俯きました。おじいさんキリギリスが子どもの視線を追うと、そこには、本がありました。おじいさんキリギリスがよく見ると、その子どものキリギリスが握っていた本は、『アリとキリギリス』でした。
ははあ、とおじいさんキリギリスは思いました。
「なんで、僕はキリギリスなんだろう?」
子どものキリギリスが、目に涙を溜めながら言いました。