日ノ本の降魔師
普通の町の普通の商店街の普通の建物の中で、学校帰りの普通の女子高生が知り合いの女性と普通に話していた。
「ところで、依頼が来てるんだけど・・・」
たわいもない世間話の中、唐突に、女性はテーブル向こうの女子高生に言った。さっきまで、気軽に話していた女子高生は、黙った。
「小さな悪霊レベルだと思うから、祓って来て頂戴」
女性は女子高生の返事を待たずに話し続けた。
「・・・人使いの荒い支部長ですね」
女子高生は面倒くさそうに口を開いた。
「いつも暇そうにしてるじゃない」
女性は、女子高生の様子は気にしていないようだった。
「暇じゃありませんよ。私は花の女子高生ですからね」
「花の女子高生が、ほとんど毎日、お菓子をつまみながら、のんびりお茶を飲みに来る?」
女子高生は、煎餅をボリボリとかじっていた。
「これは、前に置いてあるから、つい食べてしまうだけですよ」
「そうね、来ると、いつも置いてあるものね」
「そうです。習慣です」
「そして、食べた後、いつも祓いに行くのよね」
「それは、時々ですよ」
「そうかしら。一昨日も行ったでしょ?」
「それは・・・」
女子高生は食べかけの煎餅を手に持ったまま考えた。女子高生は、一昨日の事なんてずいぶん昔の事だけど、そう言えば、そうだったかなと朧気に思い出していた。
「ほら、それも習慣よ。習慣の力は偉大よね」
女性は、畳みかけるように言った。
「・・・」
「習慣は大事に守らないとね」
女性は、ニッコリと女子高生に笑いかけた。
「ほら、可愛いお鼻に煎餅がついているわよ」
女性は、女子高生の鼻の頭から煎餅の欠片を取った。女子高生は、こそばゆかったのか、手で鼻をかいていた。
「祓うの結構、疲れるんですよ」
女子高生は、嫌そうに言った。
「立花ちゃんは、力があり余ってるじゃない」
女性は怯むことなく言った。
「はあ、お静さんは、本当に人使いが荒いですね。だから、支部に私以外、来ないんですよ」
立花と呼ばれた女子高生は、頭を振りながら、やれやれと言う顔をしていた。
「そんなことないよ」
お静と呼ばれた女性は、立花の言った事が、図星だったのか、少し怯んでいた。お静の様子を可哀想に思ったのか立花は、
「仕方ないですね。何処に行けばいいんですか?」
と聞いた。
「ありがとう、立花ちゃん」
「良いですよ、別に"今日は"暇ですし」
お静は立花に対象者と行先を教えた。
「お静さん、お菓子の追加よろしくお願いします。祓った後は、甘いものが食べたくなるんで」
立花は、鞄を持って、立ち上がった。
「うん、とっておきのを用意しとくわね」
お静は、嬉しそうに答えた。
「それと炭酸ジュースもよろしくお願いします」
「は~い、立花ちゃんのために買い揃えてあるから大丈夫よ」
「じゃあ、行って来ます」