休日、数喜(かずき)は、大学時代の後輩、結花(ゆか)に呼び出された。呼び出された理由は、電話では、教えてもらえなかったが、なんでも彼女の人生に関わる、重大なことであるとのことだった。神妙な声で話す結花に、数喜は、仕事で疲れていた体を、布団から引きずり出し、彼女に会うことにした。
数喜が、結花から言われた喫茶店に着くと、彼女はまだ来ていなかった。彼は、窓際の席に座ると、ココアを頼んで、彼女の到着を待った。ココアから立ち上る湯気が、数喜の眼鏡を曇らせたが、彼は、まだ頭がぼ~としていたせいか、それを気にせずに淡々と飲んでいた。半分ほど飲み終え、カップをテーブルに置いた時、数喜の目に、歩道をちょこちょこと歩いて来る結花の姿が映った。
「やあ、数喜!」
と言って、ぶっきらぼうに手を挙げて挨拶をして来た結花の姿は、大学時代とまったく変わっていなかった。数喜が、やあ、結花、おはよう、と返す内に、結花は、彼のカップを覗き込んでいた。
「これ、コーヒー?」
「いや、ココア」
「道理でここだけ甘い匂いがするわけだ」
結花は、辺りをクンクンと嗅いでいた。
「店中、コーヒーの良い香りでいっぱいなのにね」
その言葉には、棘があるようにも感じられたが、身長百四十センチほどの小さな結花が言うと、まるで子犬が吠えているようだった。
「遠慮しない物言いは相変わらずだな」
数喜は、カップを手に取って、ココアを飲み干した。
「数喜も全然変わんないね」
結花は、ニッコリと笑った。
結花の悩み