砂漠地帯を若者が旅していた。四方を砂の山々で囲まれ、空からは、雨は降らず、ただ強い日差しのみが降り注ぐ中、若者は、何日も歩き続け、やっとのことで、人のいる町にたどり着いた。町の人々は親切で、町の中央にある井戸で、若者には、数日ぶりになる、新鮮な水を振舞ってくれた。水を飲み、元気になった若者は、町の人々に丁寧にお礼を言った後、今日、宿泊する宿を探すために、町中を歩いた。町は、大きいとは言えないが、小さいというには、栄えていた。人々は賑わい、活気があった。商売の中継点のような町なのかもしれないなと若者は思った。
少し浮かれていたためか、若者は、いつの間にか、不用意に裏路地に入り込んでしまった。若者は、すぐに、先に見える明かりを目指して、裏路地を抜けた。そこは、小さな通りで、先程の大通りと比べ、人はあまりいなかった。しかし、そこにも店はぽつぽつと並んでいた。宿泊場所は静かな所が良いかもしれないなと思いながら、若者は左右を見ながら、その通りを歩いた。
曲がり角まで来た時、ふと若者の目が道端で茣蓙を引いて座っている男の姿を捉えた。男は、元は白かったと思われる黄ばんだ布を身に纏い、建物の軒下で、砂埃にまみれて座っていた。気を取られている内に、その男が顔を上げ、若者は、その男と目が合った。若者は、目を逸らして無視するのも悪いかなと思い、声をかけることにした。
「こんにちは」


軒下のヨブ
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