海辺に太郎と言う名の若者が、親と一緒に暮らしていた。太郎の家は代々漁師の家系で、太郎も小さい頃から、親に漁の仕方を教わり、大きくなった今では、立派に一人で漁をすることが出来るようになっていた。
ある日、太郎は、いつものように、家で昼食を取ると、午後の仕事へと向かった。太郎は、竿を肩にかつぎ、魚籠を腰にぶら下げて、海沿いの道を歩いた。潮風が、心地よく太郎の体を吹き抜けた。太郎は目を瞑り、深く息を吸った。それは子どもの頃から親しんでいる海の良い香りだった。太郎の気持ちは和らいだ。そして、太郎は幸せを体一杯に感じながら、目を開けた。その時、ふと、砂浜で村の子どもたちが何かを囲んで、叫んでいるのが目に入った。「珍しいものでも見つけたのだろうか?」
太郎は好奇心に駆られ、子どもたちの方へと歩いて行った。近づいて見ると、四人の子どもたちが亀を取り囲んでいた。どの子も太郎の知る、近くの村の子どもだった。彼らは、村では、大人しい子どもたちだった。太郎が声をかけようとした時、子どもの一人が、片手に木の棒を持ち、亀を叩き始めた。


海辺の太郎: 天野小話
海辺の太郎: 天野小話