書籍紹介(サイボーグ・コビットナインティーン)

サイボーグ・コビットナインティーン


薄暗い部屋の中、円筒形の縦長の大きなカプセルがいくつも並んでいる。
カプセルは、分厚いガラスで出来ており、その中は、黄緑色の液体で満たされている。
よく見ると、人の形をした生物らしきものが、一つのカプセルに一体ずつ入っており、目を瞑って眠るように体を丸めている。
ここは、カーン大国の科学研究所。ここでは、シュー総統の指示によって、公にはされない国家機密に関わる重要な研究が行われている。
「遂に、目覚める!」
白衣を来た研究者らしき人が、カプセルに手をつけて、その中を覗き込みながら、呟いた。
「私のコビットナインティーン!」
その研究者の声に反応するかのように、カプセルの中の人の形をしたものが、目を開けた。
 

「これは、戦争である!」
 兵士たちの前で、教官らしき人が叫んだ。
「長年の屈辱を晴らすため、そして、我々の理想実現のための戦いである!」
兵士たちは、微動だにせず、両手を後ろに組んで話を聞いていた。
「君たちの役目は、社会全体の有用性を高め、維持することだ!」
 教官は、拳を強く握り、有用性という言葉を強調した。
「我が国のために大いに働きたまえ! 君たちの働きに期待する!」
 

兵士たちは、すぐに期待に応えた。コビットナインティーンと呼ばれた部隊の兵士たちは、カーン大国のために、かつてない程の目覚ましい働きをした。部隊は、まず手始めにカーン大国の隣国、チベ小国を、攻めた。チベ小国は、もう数十年も前から、既にカーン大国の属国、いや植民地のように扱われている国であった。大抵は、大人しく従っていたが、時々反抗し、カーン大国に盾突くことがあった。他国の目もあり、あからさまに軍事的に制圧することは、はばかられた。弱小国のくせに、歯向かって来ることを、シュー総統は、煩わしく感じていた。シュー総統の考えをくみ取り、コビットナインティーンが動くことになった。常に秩序を保つためには、チベ小国が独立している時代を覚えている年代、年寄りたちを始末する必要があり、その任務は、コビットナインティーンの部隊の性質上、都合が良かった。
コビットナインティーンは、姿と気配を消し、音もさせずに、チベ小国に入り込み、年寄りたちに毒をもった。あっという間にチベ小国から年寄りたちが消えた。六十代以降の世代は、皆亡くなった。ほとんどの者は、肺炎で亡くなったように見え、風邪をこじらせたのかと思われた。だが、それにしては、短期間の内に亡くなった人の数が多過ぎるように思えた。チベ小国の医療関係者は、原因を調べたが、結局、はっきりとしたことは分からなかった。チベ小国の人たちには、カーン大国からやられたなど検討もつかなかった。それ程、コビットナインティーンは、"優秀"だった。

 チベ小国の成果を喜んだ、シュー総統は、最近、喧しくなって来たホン国とワン国にも、コビットナインティーンを送った。チベ小国と同様、それらの国の年寄りたちは、息絶えた。
「これで静かになった」
シュー総統は、安心して、更に他国の侵略を進めていった。
コビットナインティーンを使った侵略は、上手くいった。どの国も原因を発見する前に、衰退していった。国を動かしていた腕利きの政治家たちや各業界の熟練の有識者たちは、コビットナインティーンによって、葬られていった。
カーン大国に対抗できる、いやシュー総統に対抗できる国は、なくなった。
「遂に、我が国が世界一の国になった!」
 カーン大国の年寄りたちは、喜んだ。
「私たちの理想が、遂に世界に認められたんだ!」
 カーン大国の年寄りたちの長年の念願は確かに叶った。
しかし、シュー総統にとって、国内の年寄りたちも、また邪魔な存在だった。


 
サイボーグ・コビットナインティーン